中西医結合和漢薬学における「卵の質を上げる」という意味について
漢方薬局では、不妊症関連の漢方療法として「卵の質を上げる」ということをよく言っている。
他の漢方薬局がどのようなイメージをもって卵の質を上げると言っているのかは知らないが、体外受精・顕微授精でホルモン剤を多用する不妊症治療を数多くサポートしている当店では、以下のように考えている。
1.ホルモン剤について
〇 腎の純陽剤として作用する
中西医結合和漢薬学では、ホルモン剤は卵胞の成長を促進する作用があることから「腎の純陽剤」に属し、その作用が生殖のみに働くようにした薬剤として考えている。
ホルモン剤が「腎の純陽剤」として身体の中に入ってきたとき、女性の腎の陰陽バランス(つまりは太極)が、その薬剤によって崩れなければ、比較的質の良い卵が採れる。
逆にホルモン剤の刺激量などが強すぎたり、女性の腎の陰陽バランスが脆弱な場合には、その薬剤によって女性の腎の陰陽バランスが大きく崩れるため、未熟卵・分割スピードが遅い・フラグメンテーションが多くグレードが低い・受精しないなどという問題が生じやすくなる。
よく卵巣の老化というが、それはミトコンドリア活性の低下に伴うエネルギー産生不良によるもの、および遺伝子的イレギュラーの増加に直結してくるのではないかと感じている。
〇 ホルモン剤は瘀血を形成する
ホルモン剤にはもう1つの作用があり、その使用自体が「瘀血」を生み出す。
ホルモン剤に関しては、HMG製剤、エストロゲン製剤、プロゲステロン製剤に関わらず、その重大な副作用として「血栓症」というものがあり、ホルモン剤の使用は、東洋医学的には瘀血の形成を促進すると考えてよいと解釈している。
瘀血の判断基準は、疼痛や舌質の紫色、瘀斑、舌下静脈の怒張などがあるが、今までの経験ではホルモン剤の使用によって生じた瘀血は、それらにはあまり反映されないという印象がある。
とくに過去の症例では、ホルモン剤の使用によって血栓が実際にできてしまった女性のサポートも経験しているが、どこにも瘀血所見は出ていない。
しかし瘀血の所見がない=瘀血証ではないとは言い切れず、この女性のようにMRIなどで血栓ができていることが確認される例も少なくない。
そういったことから、たとえば移植周期にエストロゲン製剤を用い、内膜が厚くなるにもかかわらず着床しない場合、それどころか月経量が予想以上に少量になってしまうような場合には、瘀血性の子宮内膜の微小循環不良が生じていると考えるようになった。
『金匱要略』や中医学の不孕症の専門書籍などでも、不妊症の大きな原因の1つに瘀血証が取り上げられており、ホルモン剤が瘀血を助長し、腎の陰陽バランスを乱し、腎精を消耗させる側面があることを考えると、実はホルモン剤とは諸刃の剣であり、うまくいけば妊娠できる可能性を高めることができるが、逆に生体にダメージを与えることで妊娠力を低下させてしまう原因にもなると僕は考えている。
2.体外受精・顕微授精での過去の成績から見えてくるもの
中西医結合和漢薬学では体外受精・顕微授精で卵子および受精卵の状況に対し、
① 卵が採れるものの未熟卵や凍結できない受精卵が多い
ホルモン剤によって、女性が持つ腎の陰陽バランスが大きく崩れるため、卵子を正常に形成する材料が不足する。
② 受精卵となる者のグレードが低く、フラグメンテーションが多い
気滞・水滞・瘀血という邪実が多く、それらの邪気がフラグメンテーション(汚れ)となって現れる。
③ 受精卵となるものの、分割スピードが遅い、もしくは途中で分割が止まる
卵子内のミトコンドリア活性が低く、分割に必要なエネルギーを産生できない。
と考える。
そしてそれらの状況を踏まえたうえで、卵の質を上げるために、
〇 過去の採卵においては、スケジュール通りに採卵できたかどうか(ホルモン剤の追加、日数の延長などがないか)
〇 採卵した卵の状態(未成熟・成熟)および受精卵になったかどうか
〇 受精卵の分割スピード
〇 受精卵のグレード
を確認し、そこから体質を見極め、必要な漢方薬およびサプリメントを導き出すようにしている。
とくにホルモン剤を使うケースでは、「腎の陰陽バランスが大きく乱される」、「瘀血が形成される」という意識の下、腎精・腎陽・腎陰のどこが乱される結果、卵の質が悪くなるのか(当然ここには男性の精子の質も併せて考える)を検討し、採卵周期の月経初日から採卵日までの約2週間、卵の質を高める目的で、補腎薬・活血薬を多用することが多い。
こうすることにより、客観的な視点から「卵の質の改善ポイント」が判断できるようになり、そのポイントに合わせて漢方薬やサプリメントを使えるため、総じて成績がよくなるのである。
世の中には高額な費用をかけて体外受精や顕微授精にチャレンジしている方が非常に多いと思うが、単にホルモン剤を使えば、妊娠可能な受精卵ができるのではなく、良質な受精卵ができるその裏には様々な条件が必要であることを認識し、その条件を少しでも調えたうえでチャレンジすることで、失敗が少なくなることを知っておいて損はないように思う。
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